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その紙カルテ、法律に則って正しく保管できていますか?
病院やクリニックで日々作成される膨大な量の紙カルテ。その保管方法に頭を悩ませている担当者の方も多いのではないでしょうか。
「増え続けるカルテで、書庫がパンク寸前だ…」
「法律で定められた保管期間がよくわからない」
「万が一の情報漏洩や災害時の紛失が心配だ」
このようなお悩みは、多くの医療機関が抱える共通の課題です。実は、紙カルテの保管は単なる書類整理ではありません。医師法によって厳密に定められた、医療機関の重要な「義務」なのです。
不適切な管理は、法律違反に問われるだけでなく、患者様からの信頼を失うことにも繋がりかねません。
そこでこの記事では、医師法に基づく紙カルテの保管義務の基本から、現場ですぐに実践できる安全かつ効率的な管理術までを徹底的に解説します。さらに、保管スペースやコスト削減といった課題を根本から解決する方法についてもご紹介します。
この記事を読めば、貴院の紙カルテ保管方法を見直し、より安全で効率的な管理体制を構築するための具体的なヒントが見つかるはずです。
【法律の基本】紙カルテの保管義務と定められた期間

まず、なぜ紙カルテを保管しなければならないのか、その法的根拠と具体的な期間について正確に理解しましょう。
根拠となる法律は「医師法」と「療養担当規則」
紙カルテの保管義務を定めている主要な法律は、主に以下の2つです。
1. 医師法 第24条(診療録の記載及び保存)
医師法では、医師に対して診療録(カルテ)の作成と保存を義務付けています。
第二十四条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
② 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、その完結の日から五年間、これを保存しなければならない。(出典:e-Gov法令検索「医師法」)
この条文により、病院や診療所は、診療が完結した日から5年間、カルテを保存する義務があることが明確に定められています。
2. 保険医療機関及び保険医療養養担当規則(療養担当規則) 第9条
健康保険を利用した診療(保険診療)を行う場合、療養担当規則も遵守する必要があります。
第九条 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。
こちらも同様に、診療録の保管期間を5年間と定めています。その他の帳簿や書類は3年間ですが、カルテに関しては「5年間」と覚えておくことが重要です。
注意点:「診療の完結の日」とはいつ?
法律で定められている保管期間の起算点、「診療の完結の日」とは具体的にいつを指すのでしょうか。これは一律ではなく、患者の状態によって解釈が異なります。
- 治癒・回復した場合:最後の診療日
- 患者が死亡した場合:死亡日
- 転院した場合:転院日(紹介状を作成した日)
- 患者が自己判断で通院を中止した場合:最後の診療日から一定期間(5年や10年など)が経過し、再診の可能性が極めて低いと判断される時点。ただし、この判断は難しいため、多くの病院では最後の診療日を起算点としています。
解釈に迷うケースもあるため、医療機関内で起算点のルールを統一しておくことが望ましいでしょう。
カルテ以外の医療文書の保管期間
病院では、カルテ以外にも様々な文書を扱います。主な医療関連文書の保管期間を一覧表にまとめました。
文書の種類 | 法的根拠 | 保管期間 |
---|---|---|
診療録(カルテ) | 医師法、療養担当規則 | 5年 |
病院日誌、処方箋、手術記録など | 療養担当規則 | 3年 |
エックス線写真(レントゲンフィルム等) | 療養担当規則 | 3年 |
歯科技工指示書 | 歯科技工士法 | 2年 |
保険請求に関する書類 | 療養担当規則 | 3年 |
※これらの期間はあくまで法律上の「最低」保管期間です。訴訟リスクなどを考慮し、自主的により長い期間(例:10年)保管している病院も少なくありません。
紙カルテ保管で病院が抱える3つの大きな課題

法律を遵守した上で、紙カルテを保管・管理していくことは、多くの病院にとって大きな負担となっています。ここでは、代表的な3つの課題について深掘りします。
課題1:物理的な保管スペースの圧迫とコスト
最も深刻な問題が、保管場所の確保です。
患者数が増えれば、当然カルテも増え続けます。院内に設置された書庫はあっという間に満杯になり、新たな保管スペースを探さなければなりません。しかし、院内のスペースには限りがあり、診療や患者様のためのスペースを削って書庫を拡張するのは本末転倒です。
結果として、外部の文書保管サービス(レンタル倉庫など)を利用するケースも多くなりますが、これには月々のレンタル費用という継続的なコストが発生します。このコストは、病院経営をじわじわと圧迫する要因となり得ます。
課題2:情報漏洩や災害時の滅失・毀損リスク
カルテは、患者様の氏名、住所、病歴といった極めて機密性の高い個人情報の塊です。その管理には、万全のセキュリティ対策が求められます。
- 情報漏洩リスク:悪意のある第三者による盗難、関係者による不正な持ち出し、単純な紛失など、情報漏洩のリスクは常に存在します。一度漏洩事故が起これば、病院の信頼は失墜し、損害賠償問題に発展する可能性もあります。
- 滅失・毀損リスク:紙媒体である以上、火災、水害、地震といった自然災害によって一瞬で消失してしまう危険性があります。また、経年劣化によるインクの退色、紙の破損、カビの発生なども、カルテの情報を読み取れなくする原因となります。
これらのリスクから大切なカルテを守るためには、物理的なセキュリティ対策や適切な環境整備が不可欠です。
課題3:管理・運用の非効率性と人的コスト
日々の業務における非効率性も大きな課題です。
「あの患者さんの過去のカルテはどこだっけ?」と、広大な書庫の中から一冊のファイルを探し出す作業は、多大な時間と労力を要します。特に、複数の診療科をまたいで受診している患者のカルテを探すのは一苦労です。
また、カルテの貸出・返却管理が煩雑で、誰がどのカルテを持っているのか分からなくなったり、「院内 گمشدہ(院内ロスト)」が発生したりすることも少なくありません。
こうしたカルテを探す時間、管理する手間は、すべて見えない「人的コスト」として積み重なり、本来の医療業務に充てるべき時間を奪っていくのです。
【実践】安全な紙カルテの保管方法と管理術5選

前述した課題を踏まえ、病院で実践できる安全かつ効率的な紙カルテの保管・管理方法を5つご紹介します。
1. 保管ルールの策定と徹底
まずは、院内での管理ルールを明確に定め、全スタッフで共有・徹底することが基本です。
- ファイリングシステムの統一:患者ID番号順、氏名の五十音順など、誰が見ても分かりやすいルールで整理します。背表紙の色を年度ごとに変えるといった工夫も有効です。
- 保管場所のゾーニング:カルテを「アクティブ(頻繁に使う)」「セミアクティブ(たまに使う)」「ノンアクティブ(保管期間満了待ち)」の3段階に分け、それぞれ保管場所を定めます。アクティブなカルテは診察室の近くに、ノンアクティブなものは書庫の奥や外部倉庫に置くことで、動線を効率化できます。
- 貸出・返却ルールの明確化:誰が、いつ、どのカルテを持ち出したのかを記録する「カルテ貸出管理台帳」を作成・運用します。返却期限を設け、未返却の場合は督促する仕組みも必要です。
2. 適切な保管環境の整備
紙カルテを劣化や損傷から守るためには、保管環境の整備が欠かせません。
- 温湿度管理:紙の劣化やカビ、虫害を防ぐため、書庫の温度は20℃前後、湿度は50%前後を目安に管理するのが理想です。空調設備や除湿器を設置しましょう。
- 耐火・耐水対策:スプリンクラーや消火設備の設置はもちろん、耐火性能のある書庫やキャビネットを導入することが望ましいです。水害対策として、床から数十cm高い棚に保管するなどの工夫も有効です。
- 遮光:直射日光は紙やインクを劣化させる大きな原因です。窓のない書庫が理想ですが、難しい場合は遮光カーテンやUVカットフィルムを利用しましょう。
3. セキュリティ対策の強化
情報漏洩を防ぐため、物理的なセキュリティ対策を強化します。
- 入退室管理:カルテ保管庫は原則として施錠し、入退室できる職員を限定します。ICカード認証や監視カメラを設置し、「いつ」「誰が」入退室したかを記録・監視できる体制が理想です。
- アクセス権限の管理:正規の職員であっても、業務上必要のないカルテにはアクセスできないよう、ルールを定めます。
- 定期的な棚卸し:年に1〜2回、全カルテの棚卸しを実施し、紛失や管理状況の問題がないかを確認します。
4. 外部の文書保管サービスの活用
院内の保管スペースが限界に達している場合、専門の外部業者に委託するのも有効な選択肢です。
- メリット:院内スペースの大幅な削減、専門業者による高いセキュリティ環境(24時間監視、耐震・耐火構造など)、管理業務のアウトソーシングによる負担軽減。
- デメリット:継続的な委託コストの発生、必要な時にカルテをすぐ閲覧できない(取り寄せに時間がかかる)場合がある。
業者を選定する際は、料金体系だけでなく、セキュリティレベル、災害対策、必要な際の配送スピードなどを十分に比較検討することが重要です。
5. 電子カルテへの移行・紙カルテの電子化
最も根本的な解決策が、紙媒体からの脱却、つまり「電子化」です。
これから導入する場合は「電子カルテシステム」への移行、既存の紙カルテについては、スキャナーで読み取って電子データとして保存する「スキャニング保存」が考えられます。
電子化により、以下のメリットが期待できます。
- 省スペース化:物理的な保管場所が不要になります。
- 検索性の向上:患者名やIDで瞬時に必要な情報を検索できます。
- 情報共有の円滑化:複数の医師や部署で同時に情報を閲覧できます。
- BCP(事業継続計画)対策:データのバックアップを取ることで、災害時でも情報を失うリスクを大幅に低減できます。
なお、カルテを電子データとして保存する際は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守し、真正性・見読性・保存性の3つの要件を満たす必要があります。
保管期間を過ぎた紙カルテの適切な廃棄方法

法律で定められた保管期間が過ぎたカルテは、いつまでも保管しておく必要はありません。しかし、その廃棄方法には細心の注意が必要です。
なぜなら、カルテは個人情報の塊であり、不適切な廃棄は重大な情報漏洩事故に直結するからです。普通ごみとして捨てるなどは決して許されません。
安全な廃棄方法としては、以下の2つが挙げられます。
- 機密文書対応シュレッダーによる処理:院内で処理する場合は、文字が判読できないレベルまで細かく裁断できる、クロスカット方式やマイクロカット方式の業務用シュレッダーを使用します。
- 専門業者による溶解処理:大量のカルテを安全かつ確実に廃棄したい場合は、機密文書専門の廃棄業者に依頼するのが最も確実です。箱ごと未開封のまま溶解処理するため、第三者の目に触れることなく廃棄できます。
業者に委託する際は、必ず「廃棄証明書(溶解証明書)」を発行してもらい、適切に処理された記録を残しておくことが重要です。
まとめ:紙カルテ保管の課題解決は「電子化」が鍵

この記事では、医師法に基づく紙カルテの保管義務から、安全な管理方法、そして適切な廃棄方法までを解説しました。
【本記事のポイント】
- 紙カルテの保管は、医師法で「診療完結の日から5年間」と定められた義務である。
- 紙カルテの保管には、「スペース圧迫」「セキュリティリスク」「管理の非効率性」という大きな課題が伴う。
- 安全な管理のためには、ルールの策定、環境整備、セキュリティ強化が不可欠。
- 課題の根本的な解決策として、「紙カルテの電子化」が極めて有効である。
多くの病院で、紙カルテの管理は限界に近づいています。業務効率化、セキュリティ強化、そして将来的な法改正への対応を見据えたとき、文書管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)は避けて通れない道と言えるでしょう。
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